2010年09月06日

ベースを始めた中学生の秋 その4

学年主任をぶっ飛ばすだとか勝手に文化祭で演奏するなど過激な発言をしていた石ちゃんであったが、自分やイナ君の腑抜けた気分が伝染したようで、少しずつ落ち着きを取り戻していった。そして、自分達3人がヒーローになる予定だった中学3年の文化祭は何事も無く終了した。

それから数日経った頃、イナ君が松戸の駅ビルのレコード店に音楽スタジオがあることを聞きつけてきた。そして、早速見に行こうということになった。
電車に揺られること10分、駅ビルの最上階にあるレコード店に足早に向かう。店の中に入ると、壁一面に張り巡らされたジェフ・ベックの新譜「ゼア・アンド・バック」のポスター、そしてショーケースに飾られた本物のフェンダーのストラトとジャズベース(!)、何もかもが興奮の対象だった。
そして店の奥に行くと、ガラス張りの防音スタジオがあり、そこではギター・ベース・ドラムのトリオバンドが練習をしていた。初めて見るロックバンドの演奏に我々は釘付けになってしまった。あまりにも真剣に見ていたんだろう、ガラス越しに練習中のバンドのメンバーが手を振ってくれた。自分達も全力で手を振り返した。バンドの音も彼らが自分達に向かって話しかける声も聴こえることはなかったが、気持ちだけは通じることが出来た、そんな瞬間だったと思う。大興奮の帰り道、イナ君が高校に行ったらドラムをやると話し始めた。自分はもちろんベース、石ちゃんは言うまでもなくギターで決まりだと。そして、その日は我々3人のバンド宣言の日となった。

一方、学校では進路相談の時期となり、なんとなくあわただしい雰囲気につつまれてきた。高校受験は面倒で嫌だったが、終われば念願のバンド活動が出来るわけで、とにかく春になるのが待ち遠しくてしかたなかった。イナ君はドラムのスティックを学校に持ってきて机なんかを叩いていた。石ちゃんはと言えば、どういう訳だか、浮かない表情を浮かべることが多くなってきた。ついでにいえば服装も乱れてくるようになってきた。

11月も中旬になるとスポーツ推薦で高校が決まる生徒もボツボツ出始めてくるようになった。一般の生徒もどこの高校を受験するかどうかくらいは決めるようになってきた頃でもある。自分とイナ君はそれぞれ違う高校を受験することになった。
そんな中、石ちゃんが進学しないという話しが聞こえてきた。自分とイナ君にとっては寝耳に水の話しで本当にビックリした憶えがある。石ちゃんの名誉の為にも書くが、高校に上がる学力が無いわけではなく、家庭の都合で進学を諦めるといった理由も全くなかった。普通に受験すれば学力相応の高校に入学できる実力は間違いなく持っていた。
すぐにイナ君と石ちゃんのところに行って話しを聞いてみた。石ちゃんの答えは、受験はするけど高校行くのはあまり気が進まない。だけどバンドは絶対やろうぜ、そんな内容だったと思う。そして何となく安心した気持ちになったんだと思う。

12月の期末試験の頃になると学校のムードも受験前特有のピリピリした感じになってきた。受験する生徒にとっては、内申書に関わる大事な試験だったので、なんとなく余裕のない、ちょっと焦ったような、そんな雰囲気であった。
自分もイナ君も同じような感じで、バンドのことや好きな音楽の話しもほとんどしなくなっていたと思う。そのころ石ちゃんは就職組の生徒と一緒にいることが多くなってきて、自分達とも少し距離を置くようになってきた。
いつも期末試験が終われば、石ちゃんの家でギターを好きなだけ弾いて、ラーメンと餃子を御馳走になるんだけれども、その年に限っては自分もイナ君も真っ直ぐ家に帰り、石ちゃんと一緒に遊ぶことは無かった。

年が明け3学期になり学校に行くと、石ちゃんの風体はすっかり変わってしまっていた。髪形もきつめのパーマをかけ、剃りも入り、いわゆる不良そのものになっていた。暴走族の先輩なんかにも誘われるようになっていた。とはいえ話してみればいつもの石ちゃんで、早く春になったらバンドやろうぜ!といった具合である(笑)。
そうこうしているうちに、私立高校の受験も始まったりと、あわただしい日々が過ぎて行き、それと並行するように落ち着いた時間も少しずつ戻ってくるようになってきた。自分は埼玉の私立高校へ、イナ君は茨城の私立高校に行くことが決まった。結局、石ちゃんは高校に進学することはなかった。担任から公立高校の試験だけは受けろと無理やり会場に連れて行かされたのだが、答案用紙を白紙で提出するという荒業をやってのけ帰ってきた(苦笑)。

それから卒業式まではあっという間だった。卒業式の当日、石ちゃんは先輩から借りてきた刺繍の入った裾の長い学ランを着てきて我々を驚かせた。イナ君の学ランは胸のボタンがほとんど無くなっていて、何事も無かったように涼しい顔をしていた。自分の学ランといえば、卒業式だからと母親がアイロン掛けをしてくれた全くもってきれいそのままな状態だった(笑)。
式が終わってから校門のところで3人で会うことになった。石ちゃんは不良仲間達と一緒だった。イナ君も自分もそれぞれ同じのクラスの連中と一緒にいたと思う。
その時どんな話しをしたかは覚えていない。バンドの話しもしなかったのかもしれない。
あれほど卒業したらバンドをやろうぜと言っていたにも関わらず、その約束をしないままの卒業式となった。


次回が最後の話しになります。週明けになるかなー(^^;
posted by kaz at 12:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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